大判例

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札幌高等裁判所 昭和58年(ネ)104号 判決 1984年11月19日

控訴人(被告)

阿寒バス株式会社

ほか一名

被控訴人(原告)

太刀川良三

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  申立

(控訴人ら)

原判決内控訴人らの敗訴部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求める。

(被控訴人)

主文同旨の判決を求める。

二  主張

当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する(ただし、原判決二枚目裏二行目の括弧内を「普通乗用自動車 札五七ね九八八八号――以下被害車両という。――の所有者」と、同三枚目表一四行目から一五行目にかけて「原告が加害者、被告車両が加害者」とあるのを「被控訴人が被害者、被控訴車両が被害車両、控訴車両が加害車両」と改める。)。

三  証拠関係

当事者双方の証拠関係は、本件訴訟記録中の証拠目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  争いのない事実

請求原因1のうち(一)ないし(五)(ただし、控訴車両を加害車両、被控訴車両を被害車両、被控訴人を被害者とする部分を除く。)及び(六)の前段の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  責任原因

1  右争いのない事実に、成立に争いのない乙第一号証、同第二号証の二、原審における承認太刀川令子の証言、原審及び当審における証人渡辺シヅエの証言並びに被控訴人・控訴人杉崎厚太郎各本人尋問の結果(ただし、控訴人杉崎本人の供述中後記措信しない部分を除く。)及び当審における検証の結果を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場付近道路は、厚床方面より標津町方面に通ずる国道二四四号線であつて、幅員八・二メートル、有効幅員六・二メートル(路側帯は左右とも一ないし一・一メートル。)、アスフアルト舗装され、その中央にセンターラインが白線で施された片側三・一メートルの二車線となつており、事故現場南側(厚床寄り)三〇〇メートル付近の左カーブを曲がると直線平坦となり、現場東側は「白鳥台展望台」と呼ばれる観光地で、駐車場も設けられていること。

(二)  被控訴人は、本件事故発生の日時ころ普通乗用自動車(被控訴人主張の被害車両――以下被控訴車両という。)を時速約六〇キロメートル前後の速度で運転し、本件事故現場の約一、二キロメートル南方付近から、控訴人杉崎の運転する大型乗用自動車(被控訴人主張の加害車両――以下本件バスという。)の約二〇メートル位後方をこれに追従して知床方面に向けて走行していたこと。

(三)  控訴人杉崎は、控訴会社の従業員でバスの運転業務に従事しているものであり、本件は事故当日は、観光バスである本件バスにバスガイドの訴外渡辺シヅエと共に乗務し、根室からトドワラ、標津を経由して阿寒へ向う予定であつたが、本件事故現場付近の白鳥台展望台は観光コースの一部になつてはいたものの、同展望台に立寄るかどうかは運転者の判断に委ねられていて、当日は同所に立寄ることにつき事前に同乗のバスガイドと相談していなかつたこと。

(四)  被控訴人は、当日友人と共に観光のため前夜宿泊地の根室を午前八時半過ぎころ出発して本件道路付近に至つたものであるが、先行していた友人の車から、対向車両がないから、本件バスを追い越すよう無線で連絡があつたので、道路が直線になつて間もなく、本件バスを追い越そうと考え、本件バスの動向に注意しながら前記の車間距離のまま約一七〇メートル位進行したのち、被控訴車両の右方向指示器を点滅させ、時速約七〇キロメートル程度に加速して対向車線に入つたこと。

そして、被控訴車両が約二五メートル位進行して本件バスの中央部付近に並走する状況になつたとき、被控訴人は本件バスが方向指示器を点滅せずに突然右に寄つてくるのを認め、同車との衝突の危険を感じたが、約三〇メートル程前方に白鳥台駐車場への入口があるのをみて、とつさに同所へ避けようとして、右に転把しながら制動を施して本件バスとの衝突を避けたものの、充分に曲りきれずに駐車場入口の左側縁石に衝突し、これを乗り越え駐車場内に停止したものであること。

(五)  控訴人杉崎は、本件バスを時速約五〇ないし六〇キロメートル位で運転し、本件道路に差しかかつた際、右展望台に立寄ろうと考え、白鳥台駐車場入口の南方約三五メートル付近の中央線寄りの付近で本件バスの右側方向指示器を点滅し、時速約四五ないし五〇キロメートル位に減速して約二〇メートル位進行し、右折のため中央線を越えようとして、バツクミラーで後方を見たところ、被控訴車両が約六メートル位後方に接近しているのを発見し、直ちに右折を中止し、約一五メートル進行して停止したこと。

2  控訴人杉崎は、白鳥台駐車場に右折する南方約三五メートル付近で、バツクミラーにより予じめ後方を確認したが、被控訴車両を発見することはできず、その後、約二〇メートル進行して再度後方を確認した際にはじめて発見した旨供述するが、右供述はこれを措信することはできない。すなわち、控訴人杉崎の当審における供述によると、同人は、本件道路に差しかかる直前の左カーブにおいて、後続車両の有無についての確認をしていなかつたというのであるが、前記認定のとおり被控訴車両が本件バスの約二〇メートル後方を追従して本件道路を進行していた(これに反する証拠はない。)のであるから、控訴人杉崎の供述のとおりバツクミラーによる第一回目の確認の際に被控訴車両を発見できず、第二回目の確認の際に初めてこれを発見したとすると、被控訴人は、本件バスの真後から対向車線に飛び出しざま、時速約九〇ないし一〇〇キロメートル以上の速度で追越しを計つたことになるが、前記認定にかかる被控訴人の本件事故直前における運転状況に照らして、被控訴人が右の如き運転行為をしたものとはにわかに認め難いし、他に前記1の認定を覆する足りる証拠はない。

3  そうすると、控訴人杉崎は、本件バスを運転して右折する際、被控訴車両がすでに本件バスを追い越すため、その右方に進出して来ていたにも拘らず、その確認を怠つてこれに気付かず、前記駐車場へ立寄るためその直前になつて右折のため方向指示器を点滅させ、右駐車場入口手前の約一五メートル付近で慢然ハンドルを右に切つて対向車線に進入した際、初めて被控訴車両が本件バスの右横に来ているのを認め、急拠ハンドルを元に戻し、被控訴人の前記措置と相俟つて衝突は回避したが、その際、被控訴人は、その進路に妨げられて前記のとおり駐車場入口の縁石に被控訴車両を衝突させるに至つたものと認められるから、控訴人杉崎はこれによつて生じた損害を賠償すべき義務があり、また、控訴会社と控訴人杉崎との関係は前記認定のとおりであるから、控訴会社は、その使用者として、被控訴人に生じた損害を賠償すべき義務がある。

三  損害

1  原審における被控訴人本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証によると、被控訴車両は、前記縁石への衝突により、そのフロントバンパー、フロントサスペンシヨン等を損傷し、その修理のため金九五万八〇一〇円の費用を要したこと、また、本件事故により被控訴車両の価格が金一四万円減価したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

2  ところで、本件事故発生の状況は、前認定のとおりであつて、被控訴人が本件バスの追い越しを図つたことについては何ら責を負うところはないものといえるものの、本件バスが右折を開始して進路前方に進入した際に、直ちに接触ないし衝突の危険を回避するため、咄嗟に警音器を鳴らしたり、ブレーキを踏むなどしたうえ、ハンドルを的確に操作して道路右側駐車場入口に被控訴車両を寄せれぱ、縁石への衝突を妨げたものと解されるので、被控訴人にも運転上の過失があつたというほかなく、本件に表われたすべての資料を検討すればその過失割合は三〇パーセントと認めて過失相殺することが相当である。

四  結論

そうすると、被控訴人の控訴人らに対する本訴請求は、控訴人らに対し各自金七六万八六〇七円及びこれに対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があり、その余は失当として棄却すべきものであるから、これと同旨の原判決は結局相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 瀧田薫 吉本俊夫 和田丈夫)

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